【中小企業向け】セキュリティチェックシート対応手順|取引先への回答の書き方と例

取引先から突然「セキュリティチェックシート(質問票)」が届き、何をどう答えればよいか分からない——。IT専任者がいない中小企業でも、差し戻しを減らし、期限内に“説明できる回答”を作るための実務手順をまとめました。
※なお、本記事は一般的な観点での整理です。取引ごとにその条件や契約・法務判断が異なりますので、取引先や専門家への確認も重要です。

満点を狙うより「説明できる状態」が重要

セキュリティチェックシートは、テストの点数を競うものではありません。多くの場合、取引先が見ているのは次の3点です。

  • 方針:どういう考え方でセキュリティを運用しているか
  • 現状:今できていること/できていないことが何か
  • 今後:できていないことを、どう改善していくか(優先順位と予定)

この「方針・現状・今後」の筋が通っていれば、専任者がいない体制でも信頼される回答は作れます。

最初に取引先へ確認する5項目

チェックシートを開いたら、回答作業に入る前に“前提”を合わせます。ここを飛ばすと、後から手戻りが起きやすいです。

  1. 対象範囲:どの業務/システム/拠点が対象か(全社?特定プロジェクト?)
  2. 提出期限・形式:期限、Excel/Webフォーム、記入方法、言語、ファイル名ルール
  3. 不明項目の扱い:空欄はNGか、非該当でよいか、コメント必須か
  4. 証跡添付の要否:ポリシー文書、手順書、ログ、契約書の添付が必要か
  5. 質問窓口:不明点は誰に確認するのが正しいか

ポイントは「聞くのは恥」ではなく「前提を合わせるのがプロ」。取引先側も、誤解した回答より確認の方が歓迎されます。

セキュリティチェックシートとは?なぜ送られてくる?

そもそもセキュリティチェックシートは何のために利用されているのでしょうか。

セキュリティチェックシートは、取引先が委託先のセキュリティ管理状況を確認するための質問票です。背景には、委託先やサプライチェーンを経由した事故が増え、取引先側が「委託先管理」を求められるようになった事情があります。

また、個人情報保護法上も、委託元は委託先を監督する必要があるため、その監督の一環としての役割も期待されています。

情報処理推進機構(IPA)も中小企業向け情報セキュリティガイドラインにおいて「経営者が認識すべき3原則」の1つとして「委託先の情報セキュリティ対策まで考慮する」ことを挙げており、こういった点からも、取引先のセキュリティ状況を把握するということは現代の会社経営において必要不可欠なものだといえます。

チェックシートの目的はだいたい次のいずれか、または複合です。

  • 取引可否・条件の判断材料
  • 委託先管理の証跡(やりっぱなしを防ぐ)
  • 事故時の連絡・責任範囲を明確にするため

「回答しないと取引に影響する可能性がある」のは事実ですが、同時に「分からない項目を正直に書いたら即NG」という話でもないことが多いです。

大切なのは、分からない・未対応を放置せず、説明できる形に整えることです。

種類と難易度:簡易/標準/詳細

チェックシートは、取引先ごとに形式が違いますが、難易度はおおむね3段階に分けられると思います。

簡易版(10〜20問程度)

  • 目的:最低限の有無確認(ウイルス対策、バックアップ、教育など)
  • 対応難易度:★☆☆
  • 例:「ウイルス対策ソフトを導入していますか?」

標準版(30〜50問程度)

  • 目的:体制やルール、運用の有無まで確認
  • 対応難易度:★★☆
  • 例:「情報セキュリティポリシーを策定していますか?」

詳細版(50問以上/ハイレベル)

  • 目的:手順・証跡・運用の粒度まで確認
  • 対応難易度:★★★
  • 例:「アクセス権限の付与・変更・削除手順は文書化されていますか?」

中小企業の場合、自社のリソースが限られていることが多いため、重要なのは「全部を一気に完璧にする」ではなく、回答の筋を通し、優先順位をつけて改善していく姿勢を示すことです。

セキュリティチェックシート対応を勧める5ステップ

セキュリティチェックシートへの対応については、次の5ステップで進めることがお勧めです。

ステップ1:項目を分類する

まず全ての項目に目を通し、次の4つに分けます。

  • 即答できる:現状が明確、証跡もある
  • 調べれば答えられる:担当や設定確認が必要
  • 不明:社内で把握できていない
  • 非該当:そもそも対象外(理由を添える)

この分類をすると、「どこが詰まっているか」が一気に見えます。俯瞰してみるところから始めて、最初から埋め始めないのがコツです。

ステップ2:社内の現状を棚卸しする

ITやセキュリティの専任者がいない会社でも、まずは「自社における事実」を集めます。以下は優先度が高いです。

  • 利用しているクラウドサービス(例:メール、チャット、ファイル共有、会計、勤怠)
  • 端末の種類と台数(PC、スマホ、共有端末の有無)
  • アカウントの管理者(管理者権限の数、退職者アカウントの扱い)
  • ウイルス対策(何を、どの端末に、どう更新しているか)
  • テレワークの可否、可能な場合はそのルール
  • バックアップ(対象、頻度、保存先、復元できるか)
  • 外部委託先(保守、制作、開発、BPO、再委託の有無)

ここでは結論を求めるのではなく、あくまで今後の作業のための素材を集めるためのステップであることを意識してください。

ステップ3:回答の軸を決める

素材が集まりましたが、ここからが重要です。回答の原則を、社内で先に決めます。

  • できていること:範囲と運用頻度を具体的に書く
    例:「全社PCに導入」「定義ファイルは自動更新」「月1回棚卸し」
  • できていないこと:正直に書き、改善予定を添える
    例:「一部未対応だが、○月までに全台適用予定」「手順は未文書化だが、○月に整備」
  • “言い回し”を統一する:担当者の主観でブレないようにする

もしここで「方針が決められない」「優先順位がつけられない」「そもそも現状が整理できない」と感じたら、無理に一人で抱え込む必要はありません。
短時間で“会社としての答え”を整えるための選択肢として、60分で整理する支援もあります。

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ステップ4:回答を書く

チェックシートの回答は、Yes/No で回答できる項目だけでなく、文章での回答を求められる項目もあります。このような文章での回答の際には、自由な作文ではなく、以下の点を踏まえた「監査に耐えるメモ」を作成することを意識すると、取引先にも伝わりやすいです。

  • 長文より、短文+数字+条件が強い
  • 「適宜」「必要に応じて」「検討中」など曖昧語は避ける
  • 可能なら、根拠(ポリシー、設定画面、手順書、運用記録)に紐づける

ステップ5:共有・記録する

求められた項目すべての回答が終わりましたが、提出して完了にするのではなく、最低限これだけ残します。

  • 今回の回答(提出したExcel/フォームのコピー)
  • 根拠にした資料(ポリシー、手順、設定のスクリーンショット等)
  • 未対応項目と改善予定(誰が、いつまでに、何を)

これがあるだけで、次回の対応に活用でき、手間や工数の削減につながります。

頻出項目別:回答の書き方と例

以下は、差し戻しが出やすい頻出項目です。ポイントは「〇か×か」よりも、範囲・頻度・責任者・改善予定を短く入れることです。

体制:責任者・連絡体制

質問例:情報セキュリティ責任者は任命されていますか?

  • 〇の例:
    「情報セキュリティ責任者:総務部長(兼任)。インシデント時は責任者→代表取締役へ報告。」
  • ×(未整備)の例:
    「専任任命は未実施。現状は総務部長が窓口。2026年○月までに正式任命と連絡体制を文書化予定。」

ポイント:専任でなくてもよいので「誰が責任を持つか」を明確にします。

技術:ウイルス対策・端末管理・MFA

質問例:全端末にウイルス対策ソフトを導入していますか?

  • 〇の例:
    「社内PC全台に導入。定義ファイルは自動更新。月1回の適用状況確認を実施。」
  • △(一部未対応)の例:
    「PC10台中8台導入済。残り2台は2026年○月までに適用予定。適用状況は月1回確認。」

ポイント:「全台か」「更新は誰がどう担保するか」を一言入れると強いです。

バックアップ:頻度・保存先・復元

質問例:データのバックアップは定期的に実施していますか?

  • 〇の例:
    「対象:業務共有フォルダ。週1回バックアップ。保存先:クラウド+外部媒体。四半期に1回、復元確認を実施。」
  • ×(未整備)の例:
    「現状は個別運用で不定期。2026年○月から週1回の自動バックアップを構築予定。復元手順も併せて整備予定。」

ポイント:可能なら「復元できるか(復元確認)」に触れてください。バックアップは“取っている”だけでは弱いです。

規程・ルール:情報セキュリティポリシー

質問例:情報セキュリティポリシーを策定していますか?

  • 〇の例:
    「基本方針を策定済(最終更新:2026年○月)。従業員へ周知(入社時+年1回)。」
  • ×の例:
    「体系的な規程は未整備。まず基本方針(A4 1枚相当)を2026年○月までに策定し、運用メモを整備予定。」

ポイント:大企業並みの分厚い規程がなくても、「基本方針+運用メモ」で説明可能な状態を作れます。

教育:実施内容と記録

質問例:従業員へのセキュリティ教育を実施していますか?

  • 〇の例:
    「年1回、全従業員向けに教育(標的型メール、パスワード、持ち出し、誤送信)。受講記録を保存。」
  • △の例:
    「入社時に注意事項を説明。定期教育は未実施のため、2026年○月に年1回の教育を開始予定。」

ポイント:「実施している」だけでなく「頻度」「記録」を入れると評価されやすいです。

インシデント対応:連絡・記録・初動

質問例:セキュリティ事故発生時の連絡体制は整備されていますか?

  • 〇の例:
    「緊急連絡網あり(責任者→経営→取引先窓口)。発生時は記録(いつ・何が・影響範囲)を残し、端末は隔離を優先。」
  • ×の例:
    「連絡体制は作成中。2026年○月までに連絡順と初動手順(記録・隔離・相談先)を整備予定。」

ポイント:「誰に」「何を」「どの順番で」。この3点が書ければ最低ラインはクリアしやすいです。

差し戻しが増えるNG例と直し方

NG1:曖昧な表現

  • NG:「適宜対応しています」「検討中です」
  • OK:「月1回確認」「2026年○月までに実施予定」「対象:全社PC」

直し方:頻度・期限・対象範囲・担当を1つ足すだけで強くなります。

NG2:実態以上に良く見せる

実態と違う回答は、後で必ず矛盾が出ます。事故が起きたときに最も不利になります。未対応は未対応として書き、改善予定で信頼を作る方が合理的です。

NG3:「たぶん」「やっていると思う」で回答する

チェックシートは“説明責任”の書類です。不明なら確認する、確認できないなら「不明」と書き、改善の段取りを示す方が安全です。

NG4:用語を誤解して答える

「暗号化」「ファイアウォール」「MFA」「ログ」など、言葉の定義で事故が起きます。分からない用語は、取引先に確認して構いません。

3分セルフ診断:専門家とともに考えた方が早いケース

次に当てはまる場合、内部で悩む時間が高くつくことが多いです。

  • 「不明」「未対応」が全体の3割以上ある
  • 期限が短く、社内調査だけで手一杯
  • 回答が契約条件や取引継続に影響しそう
  • 「方針・現状・今後」を会社として一本化できない
  • インシデント時の連絡順・初動が即答できない

短時間で「会社としての答え」と「優先順位」を固めたい場合は、60分で整理する支援が向きます。

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一度きりで終わらせない:次回がラクになる3つの整備

新たな取引先が増えるたびに、セキュリティチェックシートへの対応が必要になる場合もあります。次回以降の作業コストを軽減するために、以下の事項に対応することをお勧めいたします。

  1. 社内向けの回答テンプレ
    よく聞かれる設問への回答を、自社の言い回しで固定する
  2. 基本方針+運用メモ
    A4用紙1枚程度でも良いので「決めていること」「やっていること」「例外」を短く残す
  3. 年1回の見直し
    人・端末・クラウド・委託先は変わるため、更新前提にする

FAQ

Q1. 全部答えられないと取引停止になりますか?

基本的にはケースバイケースですが、重要なのは正直に不明・未対応を明示して改善予定を示すことです。取引先は“リスクを理解した上で管理しているか”を見ていることが多いため、空欄で出すことは避けるべきです。

Q2. 非該当の場合はどう書けばいいですか?

「非該当」とだけ書くより、理由を一言添えるのが安全です。
例:「当社は開発業務がないため非該当」「対象システムが存在しないため非該当」。

Q3. 未対応を正直に書くと不利になりませんか?

未対応だということ自体より、未対応を放置していることが不利になりやすいです。「現状」と「改善予定(優先順位)」をセットで書く方が、長期的に信頼されやすいといえます。

Q4. ISMSがないと取引できないのでしょうか?

取引先の方針次第ですが、特に中小企業の取引で、取り扱う情報の機密レベルがそれほど高くない場合はISMSまでは求められないケースが多いように感じます。また「ISMSがない=即NG」ではなく、代替として運用実態や証跡で判断される場合もありますので、条件が曖昧なら、早めに取引先へ確認することが大切です。

Q5. 差し戻しが多いのですが、どこを直すべき?

多くの場合、次のいずれかに該当すると考えられます。

  • 曖昧語が多い(頻度・期限・範囲がない)
  • 体制が見えない(責任者が不明)
  • “できていない”のに改善予定がない

もし心当たりがある場合は、まずはこの3点から直すと改善しやすいです。

まとめ:セキュリティチェックシート対応は「説明できる状態」を作る作業

  • セキュリティチェックシートは、満点より「説明責任」
  • 5ステップ(分類→棚卸し→回答の軸→記入→共有)で進める
  • 未対応は隠さず、改善予定とセットで信頼を作る
  • 次回のために、回答テンプレと基本方針を残す

「自社に合った回答の軸が定まらない」「優先順位が決められない」「短時間で形にしたい」場合は、専門家とともに60分で一緒に整理するのがお勧めです。

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