保育園・幼稚園の日本版DBS対応で情報管理の不備が採用を滞らせるリスク

こども性暴力防止法(通称:日本版DBS)について、行政からの通知や説明会の案内を受け取り、対応が必要な制度だとすでにご存じの保育園・幼稚園の運営者は多いはずです。

ただ、学習塾やスポーツクラブなどの「認定対象事業者」と、保育園・幼稚園などの「義務対象事業者」とでは対応の性質そのものが異なるという点まで、整理できているかというと話は別かもしれません。学習塾等は認定を受けるかどうかを任意で判断できますが、保育園・幼稚園などには、施行日を迎えた時点で確認義務が発生します。

「義務」と「認定」——法律上の違い

日本版DBSの対象事業者は、大きく2種類に分かれます。

保育所・幼保連携型認定こども園・幼稚園(学校教育法上の学校)などは「学校設置者等」として、法律上「義務対象事業者」に位置づけられています。施行日(2026年12月25日)以降、対象となる教員等について性犯罪歴の確認義務が生じます。申請して認められるかどうかを検討する制度ではなく、法律上の義務として一律に生じるものです。なお、新たに対象業務に従事する教員等は原則として従事開始前までに確認が必要ですが、施行時点で既に在籍している教員等(施行時現職者)については、施行日から3年を経過する日(令和11年12月24日)までの経過措置が設けられています。

一方、学習塾・スポーツクラブ・音楽教室などの民間教育事業は「認定対象事業者」です。認定を受けるかどうかは事業者の任意で、申請は施行日以降にしか行えず、認定基準(6要件)を満たした上でこども家庭庁に申請し、標準処理期間1〜2か月程度の審査を経て認定されます。認定を見送るという選択も可能です。

なお、本稿でいう「保育園・幼稚園」は、主に認可保育所・幼保連携型認定こども園・幼稚園(学校教育法上の学校)を想定しています。企業主導型保育施設を含む認可外保育施設は、学習塾等と同じ認定対象事業者に分類されます(個人一人のみで行う居宅訪問型保育事業など、法の対象外となる場合もあります)。自施設がどちらに当たるかは個別に確認が必要です。

項目保育園・幼稚園等(義務対象)学習塾等(認定対象)
対応の性質法律上の義務。選択の余地なし任意の認定制度
開始のタイミング施行日から法定義務が開始(現職者の確認には経過措置あり)施行日以降に任意で申請
情報管理規程最初の犯罪事実確認までに作成・提出認定申請時に作成・提出
制度に参加しなかった場合選択できない。義務違反として公表され得る(法第17条)認定を申請しないという選択が可能

対応しない場合の結末も対照的です。認定対象事業者にとって「まだ認定を申請していない」状態は、単に認定というラベルを得られないだけの選択です。一方、義務対象事業者はこの確認義務を法律上当然に負う立場にあり、義務を果たしていないと認められた場合は、法第17条に基づき、施設名・所在地・代表者名・違反内容がインターネット上で公表される仕組みになっています。

「様子見」が難しい理由

現場でお話を伺っていると、法律の存在自体は経営者・園長レベルでは把握されているものの、現場のスタッフにはあまり浸透しておらず、危機感が薄いという声をよく聞きます。

また、新しい制度への対応を、猶予期間ぎりぎりまで動かずに様子を見るという判断は、業界の慣習としては自然な反応かもしれません。しかし義務対象事業者の場合、様子を見た結果、対応が間に合わなかったという状態は、そのまま義務違反として扱われるおそれがあります。まだ認定を申請していない認定対象事業者であれば様子見の結果は「認定を取り損ねる」で済みますが、義務対象事業者にとっての様子見は、公表という社会的な制裁につながりかねないという違いがあります。

新規採用のタイミング

性犯罪歴の確認は、原則として対象業務に従事させる前に完了させておく必要があります(急な欠員など真にやむを得ない事情がある場合の例外的な取扱いはありますが、その場合も従事開始から3か月以内が基本です)。保育園・幼稚園の多くは、まさにこの時期から来春の入職に向けた採用活動が本格化します。戸籍関連書類は従事者本人がこども家庭庁に直接提出する仕組みで、確認書の交付までに一定の期間を要する見通しも示されています。採用フローの中に確認プロセスをまだ組み込んでいない場合、来年4月入職予定者を予定通り配置できなくなるおそれがあります。

情報管理そのものが「後回し」にされやすい実態

義務対象事業者が法律上負う義務は、性犯罪歴の犯罪事実確認(法第4条)だけではありません。確認した記録等を適正に管理する義務も、法第11条によって別途課されています。つまり「確認すること」と「確認した情報をどう管理するか」は、法律上別々の義務として存在します。犯罪事実確認ばかりに気を取られていると、この情報管理の義務が置き去りになりがちです

保育の現場では、日々の保育業務が優先されるあまり、情報管理そのものへの意識まで手が回っていないケースも少なくないようです。情報セキュリティに関する規定が整備されていない園、園児に関する情報を生成AIサービスに入力してしまう園、私物のスマートフォンで園児を撮影・保存する運用が定着してしまっている園なども考えられます。

また、業務用のITツール導入自体もようやく最近になって進み始めたという園もあると思います。

このように、情報管理は「保育とは直接関係のない事務コスト」として優先順位が下がりやすい領域だといえます。

日本版DBSが新たに求めるのは、こうした土壌の上に、性犯罪歴という個人情報保護法上「要配慮個人情報」に該当する、特に機微な情報の管理を積み上げることです。つまり、普段の情報管理への意識がそのままの状態では、規程を用意しただけでは実際に機能する体制にはなりにくいのが実情です。

そして万が一漏えいが起き、記録等の適正な管理を怠っていたと認められれば、法第18条に基づく是正命令の対象となり得ます。是正命令に係る是正措置が講じられたと認められるまでの間は犯罪事実確認書の交付を受けられないため、情報管理体制の不備は、新規採用者を対象業務に配置できなくなるリスクにもつながります。

もっとも、ここで整える情報管理体制は、日本版DBS対応のためだけの特別な負担ではありません。園児・保護者の個人情報全般の取り扱いを含め、適切な情報管理は現代の事業者にとって本来欠かせない基盤です。日本版DBSへの対応をきっかけに、情報管理の土台そのものを見直しておくことは、法対応の範囲にとどまらない価値を持ちます。

義務対象事業者が今から着手できること

  • 生成AIサービスへの入力や私物端末の利用など、現状の情報管理の実態の洗い出し
  • 犯罪事実確認記録等を「誰が」「どこで」「どのように」扱うかという取扱い体制の検討
  • 情報管理規程の骨子づくり(取扱者数やシステム外保存の有無によって、選ぶべきひな型が変わります)
  • 経営層だけでなく現場スタッフまで届く形での制度周知

認定対象事業者であれば「申請前にまとめて整える」というタイミングを自分たちで選べます。しかし義務対象事業者にはそのタイミングが用意されていません。施行日は一律に到来するため、日々の運営の中で少しずつ前倒しに着手しておく必要があります。ただし、規程の文言と、アクセス権限やシステム運用といった実際の運用は本来セットで設計すべきもので、園内の担当者一人がどちらも一から抱え込むのは容易ではありません。

まとめ

保育園・幼稚園にとって、日本版DBSへの対応は「やるかどうか」ではなく「いつまでにどう整えるか」の問題です。学習塾等のように認定を見送るという選択肢はなく、対応が遅れれば義務違反として公表され得る立場にあります。「学校設置者等だからこそ、施行と同時に義務が発生する」という事実を出発点に、対応の優先順位を組み立て直すことが必要です。

規程を作って終わりにせず、実際に機能する体制まで整えるには、行政書士としての規程整備と、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)としての体制面のアドバイスを、同じ窓口で二人三脚に進められると負担が小さくなります

自施設が義務対象・認定対象のどちらに当たるか、情報管理面で今どこまで準備が進んでいるかを確認したい場合は、まずご相談ください。施設の実態をお聞きした上で、規程面・体制面の両方から状況を整理します。

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